のりしろとのびしろは似てるけどだいぶ違う

のりしろと脚注のはざま

のりしろとのびしろは似てるけどだいぶ違う

薄いvs濃い、きれいvsそうでない、映画の話

今日は邦画の話を少し。先々週でしたか「めがね」を見ました。
かもめ食堂」って映画が好きで、DVDも買ったくらいなんで、同じ荻上直子監督の新作、期待に胸膨らませて観ましたよ。

しかし正直「かもめ食堂」ほどには楽しめませんでした。
ここからはネタバレになりますよ、映画観る気マンマンの人は読まない方がよろしくてよ、さらには「この映画が大好き♪」っていう人にとっては不愉快きわまりない文章に決まってるんで、・・・・なんて言うんでしょう、同じことを2度やるのはいかがなものかとまず思うわけです。
小林聡美もたいまさこ、と出演者がダブってることもありますが、ちょっとワケありふうな人々、でもここにたどり着いた理由は「あえて言わない」というシチュエーションはほぼ「かもめ食堂」と同じ。「あえて言わない」という体裁は、観る人の感性におまかせします、ということかもしれないけど、2本続けて観てくると、これは監督自身が登場人物の葛藤を描くことを拒否してるんじゃないか? つまりこの映画ではすべからく「人間」が描けていないのではないか(あるいは描く気がないのではないか?)という気がしてきたのです。

おどろくべき、様式美。

サラサラッとしていながら
「ここでは黄昏れなければならない」
「めがねを時にははずさなければならない」
という、頑なな啓示。

ああ、ワタシはこの映画では癒やされない。てか、癒やされる、って何だ?

何て言うんでしょう、この映画大好き、って言う人、周りに少なからず、います。
でもって、この映画にはおおっぴらに批判すると人間性を疑われるよーな空気があります。「人間が描けてない」なんて言ったら「価値観の違いですね」って唾棄されそうな(被害妄想ねワタシのw)。

確かに出てくる食べ物はおいしそうだし、小林聡美もたいまさこもいいし、海もキレイ、ゆったり流れる時間もステキ、きっと現場の空気も良くて、スタッフ、キャストの良好な雰囲気も伝わってくる、・・・・ま、それだけで十分だ、何が悪い?

悪くないんですよ、好きな人は好きでしょう、・・・・でもね、なんだかね、心地良さげに出来すぎてて逆に居心地悪い、この感じは何だ?

「ただ黄昏れる心地よさを知れば、アナタも楽に生きられるんですよ」的な、宗教にも似た甘い誘惑。・・・・そうだ、これはやさしい啓発映画なんだよー。ま、「かもめ食堂」も思えばそんな映画だけど、舞台が外国だけに異文化との若干の葛藤があったり、日本にない色合いがあったり、映画としてワクワク魅せるものがあった、だから好き。
・・・・しかし「めがね」はワタシ、受け入れられない。「黄昏れる」の解釈がまず受け入れられない。光石研に言わせてるセリフが何だか説明クサくてあざとい。
当初頑なに見える小林聡美ではありますが、実際にはより頑ななライフスタイルの中に取り込まれていったように見えるのは気のせい? あそこが、あの場所が甘やかな宗教の島に見えてしまったのは、ワタシがヒネてるせいなのか??

でもまあ「嫌い」とまでは言い難い、いいところもある、しかし何だか、・・・・という映画でした、ワタシにとってはね。


で、昨日DVDで「松ヶ根乱射事件」って映画を観たんですけど、これはもう「めがね」の真逆みたいな映画で、「めがね」好きな人は「松ヶ根」はまずもって観ないだろうなーと思える、そんな映画ですが、いやー面白かった。まーよくもまぁこんなに不思議な人ばっかり出てくるな、と思いますし、タイトルにある「乱射事件」のオチにもビックリ仰天ですけど、これはもう人間が隅々まで描かれてて、ある意味描かれすぎてて、このトゥーマッチな感じを受け入れられない人も多いんだろうなーと思うんですけど、ワタシは何かもう面白くって松ヶ根の町にどっぷり浸かってしまいました。

主役の新井浩文は「ゆれる」にも出ていたけどいいですねー、フツウなのに危なくて。キム兄も「ゆれる」に出ていましたが、コレがまたいいんだ、凶暴で不器用で。
特筆すべきは川越美和。彼女って、いくぶんアイドルだったと思うんですが、いつからこんなキャラに? いやーファーストシーンからどっひゃー、です。こんなのアリですか? 
そして三浦友和のヨゴレ具合がタマランです。どこかで観たな、この友和は、と思ったら、・・・・なるほどと思いました。これは公式サイトによりますと「山下敦弘監督の“『台風クラブ』のイメージで!”との強い希望が叶い、アクの強い変わった父親をいきいきと演じた」とのこと。
言わずと知れた相米慎二監督の傑作「台風クラブ」! 三浦友和は担任役でした。あれは良かったなー。確かにこの父ちゃん役のエグさとダブりますねぇ。相米監督がまだ若くして亡くなったのは日本映画界にとって大きな損失だったと思うのですが、山下監督は、その空白を埋めてくれる映画人かもしれない、とひそかに期待します。

「松ヶ根」の山下監督は現在「天然コケコッコー」が公開中ですね。個人的にはレイハラカミが音楽担当してることで注目していたんですが、これはもう是非劇場に観に行こうと思います。

〈追記〉
ってもう今は暮れですがw 「天然コケコッコー」と信じて疑わなかったこの映画、DVD発売の今になって「天然コケッコー」であったことに気づきました。とほほー。劇場にも見に行けず、謹んでDVDで見ることにします。